【世界経営者会議ハイライト】「危機でありチャンス」。IMDと企業が見通すサステナビリティの未来

気候変動による影響が顕著になる中、持続可能な社会に向けた、企業の迅速、かつ実効的な炭素削減の取り組みは待ったなしです。先陣を切る企業では、逆風をチャンスととらえ、新たな価値を生む事業や技術への投資が相次いで生まれています。11月に開かれた日経フォーラム「世界経営者会議」で、IMD教授陣がモデレーターを務めたセッションのハイライトをご紹介します。

「従来通り」が経営リスク

スイスの再保険会社大手・スイス・リー・グループのChristian Mumenthaler CEOは「予測不可能な時代における再保険の課題」がテーマのセッションで、気候変動が企業にもたらす脅威への懸念と、本格化しているCO2削減の企業の取り組みについて語りました。

Mumenthaler氏は、気候変動の脅威は何十年も前から高まっていたにもかかわらず、「世界は多かれ少なかれ無視してきた」と語り、今後、従来通りの事業を続けること自体が経営リスクになるといいます。「脱炭素に移行する中で、ネットゼロでなければ取引できないという姿勢に転じる企業が増える。従来の関係を維持できなくなる恐れが出てくる」

同社では、2030年までに自社の業務のCO2排出量をネット・ゼロにする目標を掲げ、スイスの二酸化炭素の空気回収技術が専門企業「クライムワーク」と10年間で約11億円のカーボンクレジットの購入契約を締結するなど、関連の投資や事業への取り組みを加速させています。

Mumenthaler氏は「ネットゼロを達成するには、排出量削減に加えて大気中のCO2を大規模に回収することが必要になる。いずれ市場が形成されれば、導入コストも下がっていく。(CO2排出抑制の技術や関連事業を)2050年までに石油やガスの産業と同等の規模にする必要がある」と話しました。

「歴史上最も重要な経済変革、最大の投資機会」

こう語ったのは、スイスの富裕層向け金融大手ロンバー・オディエ・グループのマネージング・パートナー、Annika Falkengren氏。

同社は、企業が取り組む事業を温度に変換して検証する「Temperature alignment methodologies」(温度評価法)を独自に開発。昨夏には、スイス連邦評議会と、気候変動に対する企業の取り組みを透明化するための指標「スイス気候スコア」の作成ワーキンググループのメンバー企業としても参画しています。

「サステナビリティーに焦点を当て、移行に備える企業に投資することが我々の使命。顧客に利益をもたらし、長期的な経済成長にもつながる。気候変動に向かって行動できる企業が今後の勝者になる」と語りました。

逆に「環境を犠牲にしてまで目先の利益を追求するような企業は、投資家から遠ざけられ、競争力を失うことになる。ビジネスモデルを変えるための投資をしないと、投資対象から外れていくだろう」とも。

金融機関も、持続可能性の観点でパフォーマンスの改善が見込める、優れた計画を持つ企業を見つけることに重点を据えるようになっている現状も語りました。

「最大のイノベーションのチャンス」

世界企業約200社で作る「持続可能な開発のための世界経済人会議」のPeter Bakker CEOは、「サステナビリティーの主流化は、イノベーションの最も大きなチャンス」と語り、市場の投資判断に「気候変動リスク」の観点を取り入れる必要性を強調。さらに、企業が気候変動に向けた目標達成を実現するための3つのステップを提案しました。

まず、企業が「ネット・ゼロ」の目標を設定すること。現状は30%程度にとどまっています。次に「ネット・ゼロ」の目標達成への移行計画をまとめ、公開すること。これも、まだ15%しか公開していません。「目標を作っても、どう達成できるかを世界に示さなければ達成に必要な資本的支出は信頼できない」とBakker氏。そして三つ目のステップは、現時点の業績に関する指標を収集し始めること。このステップを踏むことで、どれだけ目標へできているかがわかる、と語りました。

全てのセッションが終わり、総括に登壇した Jean Francais ManzoniI MD学長は「危機でもあるが素晴らしいチャンスでもある。ただ、あまりに先延ばしにすると、技術革新に乗り遅れる」と語りました。

日経フォーラム「世界経営者会議」とは

毎年11月、世界のビジネスリーダーや政治家が世界経済やグローバル課題について議論する国際ビジネスイベント。日本経済新聞社、IMDなどが主催しています。2022年のテーマは「逆風に挑む創造力 (Countering Headwinds with Creativity)」

 

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