
2025年4月23日、IMDは、日本のオンラインビジネスメディア・PIVOTとともに、「IMD × PIVOT Strategy Boot Camp(戦略ブートキャンプ)」を東京で開催しました。産官学の幅広い分野から70名以上のリーダーたちが一堂に会し、不確実性の時代において変革を牽引するための「考え方」と「ツール」を身につける、参加型・有料の1日集中型プログラムです。
この体験型ワークショップを牽引したのは、IMDのゴータム・チャラガラ教授とニコロ・ピサーニ教授。両教授による理論と実践の融合を軸に、参加者は実際の企業事例やグループワークを通じて、「現在の事業を回しながら、いかに未来を創るか」というリーダーとしての本質的な問いに向き合いました。
Sカーブで捉える、次のイノベーションの形
午前中のセッションでは、チャラガラ教授が「漸進的なイノベーションの発想を超えること」を参加者に投げかけました。
「イノベーションはSカーブを描きます」と教授。「成功している企業は、今のSカーブがフラットになる前に、それに気づき、自らを再構築するのです。」
自動車、テクノロジー、消費財などの業界を例に、参加者は次の3つの視点でイノベーションをどうリードするかを学びました:
- エンジン(中核となる製品・サービス)
- ソフトウェア(組織や人材の能力)
- ビジネスモデル(価値の生み出し方・収益の仕組み)
セッションでは日立、ソニーや資生堂といった日本の代表的企業の経営幹部や幹部候補からも、KPIのずれ、予算配分の競合、人材配置の難しさといったリアルな課題が率直に語られました。
議論を通じて導き出された変革のカギは、以下の3点です:
- 成長領域には、早い段階からトップ人材を投入すること
- 既存事業と新規事業のKPIは明確に分けること
- 製品開発だけでなく、体験価値や構造面でのイノベーションに注力すること
分断の時代における「再定義されたグローバリゼーション」
午後のセッションでは、ピサーニ教授がグローバリゼーションをテーマに講義を行いました。従来の常識が覆る、目から鱗のセッションとなりました。
「グローバリゼーションは終わっていません。ただ、形を変えたのです」と教授。「今は『どこにでも行く』時代ではなく、『意味のある場所を選んで行く』時代です。」
最新の外国直接投資(FDI)や貿易データをもとに、地政学やデジタルサービスがどのようにグローバルな価値の流れを変えているのかが示されました。参加者は、日本が1980年代にアメリカと経験した貿易摩擦も振り返りながら、今後の地域分散戦略やインフラ整備、新興国市場への投資判断のヒントを探りました。
後半の「ストラテジー・スプリント」では、参加者それぞれが自社のグローバル戦略を再設計する実践ワークに取り組みました。「どの市場を優先すべきか」「どう優位性を築くか」「拡大の前提をどう見直すか」といった問いに向き合いながら、戦略的な思考力を鍛える時間となりました。
「火消し型」から「未来志向型」へ
この日を通して何度も浮かび上がったのは、「既存の事業を回しながら、未来をどう創るか」という二重の課題です。
ある参加者はこう語りました。
「目の前の課題に追われるだけではなく、未来を見据えた取り組みをどう進めるかという視点を得られました。」
別の参加者もこう振り返ります。
「これまでグローバリゼーションは『速く、広く行く』ことだと思っていました。でも今は、『意味のある場所に、正しい理由で行く』ことが重要だと気づきました。」
このブートキャンプを通して明らかになったのは、「必要なのは新しい戦略だけでなく、新しい考え方そのもの」だということです。
もはやイノベーションは研究開発だけの話ではありません。グローバリゼーションも、単なる規模拡大の話ではありません。
次の時代を形づくるのは、「前提を疑い、インセンティブを再設計し、不確実性を変革の起点として受け入れる」ことができるリーダーたちです。
ある経営幹部は、こんな印象的な言葉で締めくくってくれました。
「今回の学びを、経営層だけでなく組織全体に浸透させていく必要があります。でなければ、古い思考に戻ってしまいますから。」
